黄熊飯店

最近、炒飯の腕があがりました。

資本主義から反玉葱主義へ

 こんにちは、玉葱抹殺機動隊隊長、私です。

 先日、買った弁当のポテトサラダに玉ねぎが入っていて、つい舌打ちをしてしまった。夢の中で捨て犬を拾い「ギョウジャ」と名づけ成犬まで育てたこの僕がだ。ちなみになぜ「ギョウジャ」かというと、ギョウジャニンニク畑に捨てられていたくっせえくっせえ子犬だったからだ。なのに拾ったんである。でも、玉ねぎには舌打ちをした。

 人は元来、野生動物を捕らえて食べていた。これは当然、自然の摂理である。そして、コメや麦をみずから育て、炊いたりして食べるようになった。これもすごい、頭が良い。さらに、なんだかよくからない菌をつかって(おや?ここからなんだかおかしいぞ?)、パンを生み出した。それから、唾液とかでお酒なんか作って(おやおや?)、玉ねぎもおお、これ食えるぞなどといって、フグなんかでもこことればおいちい!といい、最近は野菜で作ったお肉なんて意味不明なものがあり……なにかがおかしい。こんなのもうめちゃくちゃである。どこで人類の食の歯車が狂い始めたのか。そう、指摘するまでもなく、玉ねぎを「おお、これ食えるぞ」と言ったところである。ここから人の舌は狂い始めたんである。私は玉葱抹殺機動隊を組織し、人類補完計画を実行したい。

 そもそも、あんなシャキシャキしてるのか、ぐにゃぐにゃしているのか、どっちつかずの軟弱野郎で、しかも色んな場面に昔からいますよ〜って顔で入り込む、そんなお調子者をこの目まぐるしく移り変わる厳しき現代社会で野放図にしておいてよいのか。このままでは将来の夢が炭治郎などと小学生たちがのたまう、今の由々しき事態に拍車をかけ、「将来は玉ねぎのように優柔不断にいきたいです!」などと馬鹿なド餓鬼を増やすことになるんではないか。

 そのうえ玉ねぎたちは、散々調子にのったあげく、調理場にたつ女たちを泣かす。しかもしかも、涙するのは女に限らず、屈強な男や純粋な少年少女でさえも、彼らの前に頬を濡らす。誰でもいいのかこの色情魔が!!

 泣かした女は数知れず。しかし、そんなのどこ吹く風。今日も明日も明後日も、気の向くままにのらりくらり。

 ……粋ではある。悔しいが、粋といわざるをえない、かもしれない。めちゃくちゃ江戸っ子である。

 しかし玉ねぎ、覚えておけ。いまは令和、そんな無茶は通用しない。

 玉ねぎ、お前は最近料理を始めた、一人暮らしの女子大生や、中華料理を作る人妻、味噌汁を煮込むおばあちゃんに至るまで、あらゆる女を泣かしてここまできた。天保の昔からそうして生きてきたのであろう。だが、お前もそろそろ良い歳である。そろそろ身を固めねば、そう思う。

 そしてお前は一人の少女に出逢う。色白で黒髪の、可憐な乙女である。お前は、出会いそして別れる際に女たちの見せた、例えばキャバ嬢の涙で厚化粧を崩し、油絵のようになった顔面や、元来不細工なのに顔を歪め鼻水を垂らし、くそきたねえブルドックのようになった女子大生の顔面など、そういった泣き顔を全て忘れ、少女を愛する。お前は少女と過ごす、暖かな時間だけが人生の全てである,本気でそう思うようになる。

 しかし、時はくる。彼女がお前の前に泣くときである。愛され、そして愛したものさえも泣かす。それがお前の運命なんである。

 お前は葛藤するであろう。苦悩するであろう。物心ついたときから、シャキともグニャともつかぬ曖昧な感じで愛想を振り撒き、カレーやシチュー、あらゆる世界に「どうもどうも」と入り込み、大した仕事もせぬくせに、その愛想だけで過大な評価を受けてきた。お前はその自分の生き様をどこか自慢げに感じていたのではないか。無骨に形を変えぬじゃがいもを嘲笑い、こぎたねえ牛蒡たちを足蹴にしてきたのではなかったか。

 ここでお前はようやく気づく。ああ、おれは実直に他人に向き合うことなどなかったと。だから数々の人々を泣かし、何の後悔もなくさらに次の人を泣かしてきたのだと。そして初めて己の人生を悔いる。

 しかし私はそんなお前を許しはしない。いまさら悔いたとて、もう遅い。私がイカリングと思い口にしたのがお前で、久しぶりに酒以外で吐いたこと、忘れてはいまい。

 私は数日のうちに玉葱抹殺機動隊を組織し、全国に機動隊員を派遣する。彼らの脳は電脳化、並列化されており、玉ねぎ畑は発見され次第、反陽子爆弾の餌食となるだろう。

 私だって、こんな手荒な真似はしたくなかった。だが、致し方のないことだ。お前の外面を剥いでゆくのが、私の使命なんである。外面をむき、むき、さらにむいたお前に何が残る? そう、お前は芯というものがない、薄っぺらい奴なのだ。

 個人的な恨みつらみのようになったかもしれないが、移り変わりゆく社会、こうして淘汰される者が出てくるのは世の常なんである。いま世界は資本主義を抜け、新たな反玉葱主義へと足を踏み入れんとしている。そこは、誰も泣くことのない、美しき世界である。

 

追記:ネットフリックスで劇場版のエヴァンゲリオン配信しちくり〜